この記事では、加害者の元から離れたのに“なぜか戻りたくなる”と感じてしまう方へ、その心理と乗り越え方をお伝えします。
同じように悩んでいるあなたに、安心して読んでいただけるよう、筆者を含め、当事者の声を交えてお届けします。
解放からの誘惑-自由になったはずなのに、なぜか『戻りたい』と感じてしまう理由とは?
長年、苦しんだはずの加害者と住む家。
絶え間ない緊張、強い束縛から解放された瞬間、目に映る全てのことが輝いて見えます。
それは、あなたにとっての「本当の自由」です。
しかし、相談支援の経験から言えることですが、加害者の元から離れたにも関わらず、再び家に戻ってしまう方が一定数いらっしゃいます。
輝いて見えたはずの新しい生活の厳しさに直面し、予期せぬ孤独、乗り越えなければならない壁に当たることもあるでしょう。
「あの家に帰ってしまいたい……」そんな甘い誘惑が、疲れたあなたの心にそっと囁きかけるのです。
「そんなことあるはずない」「あんなに苦しんだんだから」そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、様々な研究や支援現場の報告からも、一度離れた加害者の元に戻ってしまうことは決して稀なケースではないことが分かっています。

「元にいた家の問題が解決して帰る」のではなく、目の前の現実に立ち向かうことが辛く、逃げ帰ってしまうということが意外と多くあるんだ。
苦しみを与えられた場所に、なぜ戻ってしまうのか
まず、一つ目の可能性として、私たちが変化を恐れる生き物だからということがあげられます。
見慣れた景色、予測できる人間関係の中に、たとえそれが歪んだ関係性であったとしても、何も知らない外の世界、新しい出来事で傷つくことを経験する。
先の見えない未来への不安や対人関係の苦しさが、過去の、良くないと分かっているはずの場所に、帰りたくなる原因の一つとしてあるようです。
そしてもう一つ、加害者との間に複雑な感情が深く絡みついている場合も多くあります。
愛情、憎しみ、依存、恐怖、そして時には同情。
心の奥にある「(加害者に)愛されたかった」「本当は私を愛してくれていたのではないか」「私が支えてあげなければ」「もしかしたら、私がこの人を理解できるのかもしれない」「変わってくれているかも」それらが複雑に絡み合い、あなたを捕らえ、家に戻してしまうのです。
普通の関係であれば得られたはずの愛情を求めて、帰ってしまうケースもあります。
過去の出来事を思い出してしまうことも
何かきっかけがあって、過去の出来事やトラウマを思い出すこともあります。
幸か不幸か、家を出ても、一度経験した衝撃的な過去は自分から消えてはくれません。
ふとした瞬間に、まるで昨日のことのように蘇る、かつての日常の記憶。
ちょっとした物音が聞き慣れたはずの足音に聞こえたり、いないはずの加害者に呼ばれたように感じたり、そんなこともあるかもしれません。
辛かった記憶が鮮明に蘇るほど、「あの頃」の感情もまた呼び起こされ、心が弱っている時には、過去へと引き戻そうとするのです。



乗り越えるまでは、思い出すことで苦しくなることもあると思う。でも、思い出しても「あんなこともあったな〜!」と思える、乗り越えられる日が絶対くるよ!大丈夫!
「私の場合」 – 虐待から逃れても、心の奥底で疼く帰りたい気持ち
長年、暗く重い空気の中に閉じ込められていた私にとって、虐待の絶えない家を出ることは、まさに長年の夢が叶った瞬間でした。
初めての一人暮らし。自分の好きなようにできる時間、自分で選べる食事、誰の顔色を窺うこともない安堵感。
しかし、現実はそう甘くありませんでした。
慣れない生活での小さな失敗、予期せぬトラブル、そして何よりも、ふとした瞬間に襲ってくる孤独感。
日常で苦しいことがあると、私の心は重く沈み、そんなときは引き寄せられるように、あの家に帰りたくなってしまうのです。
「今なら、親は変わって私を愛してくれるかもしれない」。
そんなありえないはずの幻想が、何度も頭をよぎりました。
長年、渇望してきた親の愛情。
「愛されたい」という思いや、温かい愛情を求める気持ちはなかなか消えませんでした。
そして、その頃は、不思議なことに、私の周りにも同じような経験をしている友達が何人もいました。
例えば、子供よりも恋人を優先するような親に育てられたその子は、常に親の愛情に飢えていました。
私が「辛くて家に帰りたくなってしまう」と打ち明けると、彼女もまた、「親はなんだかんだ言っても家族だから」「きっと、本当は私たちのことを愛しているんだ」と、まるで自分に言い聞かせるように話していました。
今思い返せば、お互いに、親の愛情を求め、都合の良いように過去を美化していたのだと思います。
外の世界の厳しさや、親の愛情が本物であったか、今一緒にいることが本当に互いにとって幸せなのか、真っ直ぐ見つめて考えることが難しかったのです。



愛情かどうか、見極めるのが難しく感じることもあるよね。愛情を真っ直ぐ伝えられない、不器用な人もいる。
大事なことは、心の目で相手を見て、一緒に居続けることが幸せか、自分の心が「このままこの家にいたいいかどうか」ってことだと思うよ。
私のように、一度は戻りたいと感じてしまうのは、決して特別なことではありません。
長年心に刻まれた傷や、満たされなかった愛情への渇望が、あなたを過去へと引き戻そうとすることが、何度もあるかもしれません。
これを読んでいるあなたが、私と同じように思っていたとしたら、自分の心に「本当に帰るのか」聞いてみてほしいと思います。
「一時的な安堵は得られるかもしれないけれど、根本的な解決にはならない」
そう思ったら、絶対に戻ってはいけません。
本当の温もりは、あなたを傷つけるような家にはありません。
後戻りしないために-“本当の自由”を手にするために必要なこと
今目の前で起きている困難や苦労は、あなたが新しい道を歩み始めた証であり、あなたが加害者のところにいる間に、他の人たちがすでに経験し、成長している出来事なのだと思います。
歪んだ空間で育った人が、本来経験しなければいけないことを経験できておらず、外の世界の人たちより心の成長が仕切れていないというケースは少なくありません。
全て新しいことなので、失敗するのも当然です。
そして今は、何かに怯えることなく新しくスタートをきった自分のためにだけ努力できる、あなたが勇気を出して手に入れた時間です。
あなたの選んだ道が、未来を変える「自分自身を信じて」
もし今、心が激しく揺れ動き、過去に戻りたいという強い誘惑に駆られているなら、どうか勇気を出して、信頼できる誰かに相談してみてください。
友人、家族、支援団体、専門のカウンセラー……あなたの周りには、あなたの味方が必ずいます。
過去の傷は、簡単には癒えないかもしれません。
それでも、あなたは一歩ずつ、確実に前に進んでいます。
大丈夫。どうか、その小さな一歩を誇りに思ってくださいね。
相談窓口紹介
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